ウェディング・チャイム
 ひとりぼっちという言葉を聞いて、心の奥がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。

 私も中学時代、ひとりぼっちだったから。

 ひとりぼっちで行動する心細さや、嘲笑されるあのいたたまれない雰囲気は、今も忘れられない。

「なぜひとりぼっちだったのか、甲賀先生はご存じですか?」

「ああ、知ってる。クラスのボス格の女子とケンカして、仲間がみんなそっちについたっていう話だ。何が原因のケンカだったのかはわからないけどさ」

「そう、ですか……」

 私がひとりぼっちになったのと、実は同じ状況だったのかも知れない。

 クラスの中心人物を敵に回してしまい、翌日から誰も私に話しかけてこなくなった。

 卒業するまでの辛抱だと思って耐えたけれど、あの時は本当に学校へ行くのが嫌だった。

「だから、教育実習へ来るって聞いた時、実はちょっと期待していたんだ。大崎は自分の辛い経験も糧にして、教員になりたいって考えたんじゃないかって。だけどなぁ……まだ実際にはその時の経験がトラウマになってるのかも知れない」

「そういう話、大崎先生から聞いたことがあるのですか?」

「ない。多分彼女にとっての黒歴史ってやつだろうから、俺もあえて聞かない」

「残り三週間で、もうちょっと子ども達とも打ち解けてくれるといいですね」

 私がそう言うと、甲賀先生は困ったように笑った。

「そう、子ども達と打ち解けて欲しいんだよ、俺は。俺とこれ以上打ち解ける必要はないんだけどなぁ」

「え?」

「いや、こっちの話。それより藤田ちゃん、今がチャンスだから久しぶりに愚痴聞いてやるよ。最近のクラスの様子はどうだ?」

 話をすり替えられてしまったけれど、これはやっぱり、大崎先生の積極的な態度のことに違いない。

 昨日の彼女の様子を思い出して、気持ちが沈む。

 あと残り三週間、私はどうやって彼女に接したらいいのだろう。

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