ウェディング・チャイム
9月の行事予定
~私もまだまだ未熟者です~
~私もまだまだ未熟者です~
……やりにくい。
大崎先生にツッコまれるのを警戒しているので、これまでのように甲賀先生に話しかける時もつい用心してしまう。
もうすぐ実習生の研究授業ということで、放課後は大崎先生が職員室で甲賀先生に教えを乞う時間も増えた。
聞くつもりはなくても、隣に座っていると嫌でも耳に入る二人の会話が気になって、仕事に集中できない。
こんな時、私は教室で仕事をする。
職員室にいると、保険の勧誘や、教材販売会社や書店からの売り込みが頻繁にある。美味しいパン屋さんが売れ筋商品を売りに来ることもあり、ついつい高カロリーな生クリームサンドなどを買ってしまったり。職員室は色々な意味で邪魔や誘惑も多い場所だったりする。
今日もまた、私は教室にPCを持ち込んでお便りを作っていた。修学旅行が近いので、班の名前や部屋割りを載せて、持ち物リストも再掲載、と。
静まり返った教室に、私がキーボードを叩く音が響く。
画面に集中していたその時、足音と話し声が廊下から聞こえてきた。
……甲賀先生と、大崎先生が一組の教室へ入ってきたらしい。
いよいよ今週末に迫った研究授業のため、教室で板書の練習などをしているのかも知れない。
せっかく二人から離れるために教室へ籠っていたのだけれど、二人がこちらへ来たのであれば、私はそろそろ職員室へ戻ろう。
PCを抱えて廊下へ出た私の耳に入ってきたのは、板書の音ではなく二人の話し声だった。
子ども達がいない学校は、本当によく音が響く。
「甲賀先生……私、やっぱりこんな中途半端な気持ちのままでは実習を続けられません」
大崎先生の切羽詰まった声が、聞こえてしまった。
「え? 何で? いや、もうここまで実習やっただろ? あとたったの六日間だってさっき確認……」
慌てる甲賀先生の声に被せるように、大崎先生がきっぱり言った。
「だから、今、言わせて下さい!! 今ならまだ間に合うから。甲賀先生にはものすごくご迷惑をお掛けするって解っています。でも、やっぱりもう黙っていられないから!」