ウェディング・チャイム
甲賀先生のお友達の話を思い出す。奥さんは大学を卒業する前に結婚して、一緒にパラオへ赴任したと聞いた。
いや、そんなはずはない。今まで私に思わせぶりな態度を取っていたんだし、と自分に言い聞かせる。
でも最近は……大崎先生が実習に来てからというもの、そういう態度も発言も全くなかった。
純粋に自分を慕ってくれる美人女子大生と、煩わせるばかりで可愛げのない同僚。
……ダメだ、生物学上の雌としては勝負にならない。
今更ながら、自分の女子力の低さを思い知った。
勉強や仕事なら努力次第で結果が出せるけれど、恋愛ってどうすればうまくいくのかわからない。
数値に表れないことは苦手だ。評価の基準がはっきりしないことも。そして、友達付き合いも恋愛も、どうしても一歩ひいてしまう。
積極的にガンガン進むタイプの甲賀先生や大崎先生は、お互いに似たタイプだから、惹かれあったら一直線、なのかも知れない。
ぐるぐると頭の中を巡るのは、良くないことばかり。それでも時間は刻々と過ぎる。
職員朝会前にビデオカメラの充電をしてから、教室の様子を見に行く。
「先生、おはようございま~す!」
「おはようございます。宿題、出しておいてね」
子ども達に声をかけてから、廊下へ出た。
一組の教室には、甲賀先生と大崎先生がいる。
いつものように甲賀先生の周りには大勢の子ども達が集まっているけれど、大崎先生はひとりでプリントをチェックしていた。
……こういう時、普通は逆だ。実習生に子ども達が集まり、楽しく会話する。その隙に担任がバリバリ仕事をするはずなのだけれど。