ウェディング・チャイム
こうして大崎先生の授業は無事に……いや、無難に終わった。先生方からは『実習生とは思えない、落ち着いた授業だった』という評価が多い。
そして裏ではこっそりと『さすがあの大崎校長の娘!』と囁かれている。
他の実習生と比べても、確かに落ち着いていた。それは本当に凄いことだと思う。
ここまで頑張ったのに、なぜ彼女は教員になることを諦めるのだろうか。
研究授業が終わり、実習生にとっては少しほっとできる時期になった。
子ども達と思う存分遊んで、懐かれて、思い出を作る期間。
この仕事に絶対就くために、教員採用試験の勉強をこれから頑張ろう、という気力を充填させるための大事な役割を果たす時期でもある。
だけど、やっぱり大崎先生と子ども達との距離は、それほど縮まっていないように見えた。
指導教諭の甲賀先生は、実習生が書いた日誌と指導案のチェック、大学へ提出する書類の確認に余念がない。
さらに子ども達へこっそり色紙を回したり、プレゼント用のアルバムの作成にお別れ会の準備もしているので、本当に忙しそうだった。
私にできるフォローは、学年の仕事を引き受けること。
学年通信の発行と、目前に迫った修学旅行の準備をこなす。
旅行のしおりのチェックと製本、実行委員会のメンバーを集めて、司会やレクの練習、旅行会社との打ち合わせなどなど。
そんな状態だったので、甲賀先生とはのんびり話をする余裕もなかった。
大崎先生とあの日、何を話していたのか気になったけれど、それよりも修学旅行を成功させることが大事。
仕事に集中していたら余計なことを考えずに済むし、少しでも甲賀先生の負担を減らしたいという思いから。
それにしても、大崎先生の言動には不思議なところが多い。
教員になるための技術は十分だと思うのに、彼女の振る舞いはそれを全力で否定するかのよう。
もしかしたら、わざとそうしているのかな、と感じるほどだった。