ウェディング・チャイム
ついに迎えた実習最終日。離任式での挨拶を終え、六年一組の教室でも五時間目に大崎先生のお別れ会が行われた。
隣のクラスから、賑やかにフルーツバスケットや椅子取りゲームを楽しむ声が聞こえる。
うちのクラスの子ども達はそれを羨ましがりながら習字を書いていたのだけれど、私は自分が実習生だった頃のことを懐かしく思い出していた。
お別れ会で子ども達が号泣してくれて、私もつられて号泣しながら挨拶した。
必ず本当の先生になるからと子ども達に約束して、みんなと握手をしたのが、つい最近のことのようだ。
大崎先生にも、忘れらない思い出ができただろうか……。
その日の授業を終え、職員室で閻魔帳をチェックしていた私の隣に、大崎先生がそっと近づいてきた。
「藤田先生、今までお世話になりました」
「大崎先生、お疲れ様でした。お別れ会、楽しめましたか?」
「ええ。楽しかったです。色々勉強になりました」
すっきりとした笑顔だったので、少しほっとした。
彼女にとって、悔いの残らない教育実習だったのであればいいのだけれど。
「そう感じてもらえて良かったです。残りの大学生活も頑張ってくださいね」
にっこり微笑んで、もう一度大崎先生の表情を見たら、眉間に皺が寄っている。あれ?
「藤田先生、最後にもう一度お話ししませんか?」
もしかしたら、私と話す機会を待っていたのだろうか。
その決死の形相で持ち掛ける話って、甲賀先生のこと、なんだよね?
「わかりました。それじゃあ、教室へ行きましょう」
閻魔帳を閉じて、職員室を出た。
前と同じように、西日が眩しい教室のカーテンを閉めてから、大崎先生に声をかける。
「お話って、何ですか?」
「……すみませんでした!」
いきなり、深々と頭を下げられてびっくりした。
「どうしたんですか?」
「せっかく実習させて頂いて、藤田先生はたくさん指導案も準備して下さったというのに、私、教員にはなりません。元々なる気は全くなかったんです」