ウェディング・チャイム
あれ? まずはそっちの話、なのね。
思いっきり身構えていた私は、ちょっとだけ肩透かしを食らって動揺した。
「い、いや、それは職業選択の自由ってことで、別に私に謝らなくてもいいですよ。嫌々頑張っても辛いですから、今のうちにそれが解って良かったじゃないですか」
甲賀先生からちょっとだけ聞いてはいたけれど、やっぱり教員にはなりたくない、ということなんだろうか。
「でも、余計なお手数をおかけした訳で……」
「いいえ、余計ではないですよ。私だって指導案を作りながら勉強させてもらったし、将来実習生を受け持った時にどうすればいいのかっていうお手本を、甲賀先生から見せてもらいましたから」
「すみません……どうしても他の道を諦めきれなくて」
「他の道、というと、他の仕事に就きたいの?」
教育大から他の仕事、というのはちょっと珍しい。
「はい……。何でこの大学へ入っちゃったんでしょうね、私」
自嘲ぎみに、彼女は話を続ける。
「父も母も、私の母校で知り合いました。私も当然そっちの道へ進むだろうと周りが期待してたんですよ。父も表向きは私が教員になることに反対していましたけれど、推薦で教育大へ進むことがわかったらとっても喜んでくれて」
私はただ、黙って頷いた。我が家とは全く違う家庭環境の彼女にも、色々な悩みはあったのだろう。
偉大なお父さんを持つ大崎先生は、そのプレッシャーと闘いながら教育実習をこなした訳だし。
「高校時代、一度だけ、本当になりたい仕事について両親に相談したことがありました。でも、最初は冗談だと思われて。ムキになって本気であることをアピールしてみたら、猛反対されちゃったんです」
「……なるほど。で、大崎先生は、将来何になりたいの?」
「笑わないでくださいね」
「もちろん」
私は彼女の目を見ながら力強く頷いた。
「実は私……漫画家目指してるんです!」