ウェディング・チャイム
ま、漫画家!?
内心、ものすごく驚いた。大崎先生は、堅実な将来を思い描いているタイプだと、勝手に思い込んでいた。
だってどう見ても、漫画より文学作品を片っ端から読み漁るような、隙のない優等生キャラだったから。
……いやいや。かの有名な漫画の神様だって、阪大医学部卒のドクターだったじゃないの。
それに、あの見事な板書計画は、事後研修でも先生方から絶賛されていた。
今にして思うと、黒板が漫画の原稿用紙であるかのように、見やすく、わかりやすく描かれていたんだ。
色んなことを頭の中でぐるぐる考えていた私の耳に、かすかなため息が聞こえた。
「やっぱり、呆れちゃいましたよね?」
「ううん、違うの! 呆れたんじゃなくて、驚いただけ。でも言われてみれば、板書がとても丁寧で、わかりやすい図をパパッと描けていたから、なるほど~って思って」
あの見やすい板書は、漫画のコマ割りを元に編み出されたのかも知れない。
算数の立方体や直方体、それに展開図も、複雑な組み合わせをパパッと描いて子ども達から拍手喝采だったらしいし。
図工の写生でも、彼女が指導した絵はみんな構図ががらりと変わって、とてもいい作品になっていたっけ。
『キャリア十年の俺の立場は一体……』なんて、絵心のない甲賀先生がちょっとしょげていたのを思い出す。
「ありがとうございます。藤田先生には絶対私、嫌われてるから……っていうか、嫌われキャラでいこうと思ってましたから。受け入れてもらえてほっとしました」
き、嫌われキャラを演じていたとでも言うのだろうか?
教育実習でそれをするって、何の得にもならない気が……そっか、教員になる気がないのであれば、別に教職員間の評価はどうでもいいのかも。
むしろ、評価を下げようとしていたのだとしたら、彼女の不可解な行動も納得できる。
なるほど、と思いつつ、振り回されてしまった自分の未熟さに苦笑いした。
「嫌ったりなんかしませんよ。ただ、ちょっと押しの強い子だな~とは思ってたけれど、ね」