恋したメアリ
暗闇の中に降りていくのは想像以上にぞっとする。
手探りで進む階段は、しかもひどく長かった。


「本当に、浅川に会えるんだな」


「うん、でも期待はしないでほしい。彼女は役目を終えている」


「どういうことだ」


メアリの背中はか細く、ワンピースの白に引けをとらないくらい色が白かった。

その背が言葉を紡ごうと一息吸い込む形で動いたのが見えた。


「十五年前、浅川医学博士にひとり娘が産まれた。
名前は芽有。
産まれた芽有は自発呼吸ができず、おなかには大きな奇形種がくっついていた。
奇形種って知ってる?」


俺は首を横に振った。


「奇形種は腫瘍の一種。
元は胎児になるはずだった細胞が暴走するといったら語弊があるかな。芽有の場合は双子の片割れをおなかに宿して産まれてきたんだ。
すぐに手術が行われ、芽有の奇形種は摘出された。しかし、産声すらあげていない芽有は眠ったまま。

浅川夫妻は嘆き悲しんだ。
そして、間がさした……いや、きっとちょっとした好奇心だったんだね。
摘出した奇形種を、人口羊水をもとにした培養液に浸けてみたんだ」

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