恋したメアリ
昼休みになり、俺はようやく
浅川に成り代わっている少女に声をかけるチャンスを得た。
教室からふらりと出ていった彼女を追い、
渡り廊下で後姿に声をかけた。
「おい!おまえ!」
彼女はくるりと振り返る。
栗色の髪がふわりと頬の横で揺れた。
「えーと、小諸啓介(けいすけ)くん」
思い出すように顎に人差し指を当てる仕草。
向かい合ってみると、彼女はやはり浅川芽有とは別人だった。
正確に言うと似てはいる。
しかしそれは、姉妹や母娘の関係に存在する類似感でしかない。
同時に俺は、彼女と浅川がどう違うのかという説明ができないことに気付いた。
目の形や大きさ、弓なりの眉、小さな唇。
それらは浅川もそっくり同じものを持っていた。
しかし、違うのだ。
理由はわからないが、彼女は浅川じゃない。
俺は自分の感覚の混乱に愕然とした。
「おまえ、誰だよ」
思い切って問うと、目の前の少女は大きな目をさらに見開き、少し黙った。