恋したメアリ

昼休みになり、俺はようやく
浅川に成り代わっている少女に声をかけるチャンスを得た。

教室からふらりと出ていった彼女を追い、
渡り廊下で後姿に声をかけた。


「おい!おまえ!」


彼女はくるりと振り返る。
栗色の髪がふわりと頬の横で揺れた。


「えーと、小諸啓介(けいすけ)くん」


思い出すように顎に人差し指を当てる仕草。


向かい合ってみると、彼女はやはり浅川芽有とは別人だった。

正確に言うと似てはいる。

しかしそれは、姉妹や母娘の関係に存在する類似感でしかない。

同時に俺は、彼女と浅川がどう違うのかという説明ができないことに気付いた。


目の形や大きさ、弓なりの眉、小さな唇。
それらは浅川もそっくり同じものを持っていた。


しかし、違うのだ。

理由はわからないが、彼女は浅川じゃない。
俺は自分の感覚の混乱に愕然とした。


「おまえ、誰だよ」


思い切って問うと、目の前の少女は大きな目をさらに見開き、少し黙った。

< 6 / 33 >

この作品をシェア

pagetop