恋したメアリ
「浅川芽有だけど。クラスメートの」


「違う」


「えーと、そうだね。小諸くんの彼女の」


「それが違うって言ってんだよ」


語気が荒くなる。

少女はまた黙った。
何か考える風に唇に拳をあてがっている。


「そうか、そんなこともあるのか。縁が働くと」


「何言ってんのかわからないけど、浅川はどこだよ。成りすましてるおまえは誰だよ」


彼女がこちらを見た。
鋭い眼差しではないがはっきりした色味があった。


「小諸くん、きみには納得し辛いかもしれないけど、私は浅川芽有。これからはずっとね」


俺が反論するより先に、彼女は俺に指先を突きつけ、いたずらっぽく微笑んだ。

それは浅川ならけしてしない笑い方だった。


「きみの感じる違和感は口にしない方が賢明だよ。きっと周りはきみを変に思うからね」


「おい!」


浅川はくるりと踵を返し、廊下を反対の棟に向かって歩いて行った。

ざあっと嫌な風が吹いた感触がした。



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