ヒトノモノ
午前中は全くベッドから抜け出す事が出来なかった。こんなに彼がタフだったとは予想外だ。
疲れきった体を動かすのも億劫で、私はいま蓮の腕の中。それでも私は聞かなければならないことがある。
たとえそれが知りたくない真実だったとしても。
「蓮、昨日の件ちゃんと話して」
「あー…まだ覚えてんの?」
「当たり前でしょ。誤魔化さないで」
「…分かったよ」
蓮は渋々話始める。その内容はやはり驚きと呆れがまざったものだった。
彼は女避けのためにわざと彼女がいるふりをしていたらしい。そしてヤキモチを妬かせることで私の気持ちを確かめる意図もあったというのだ。
「摩耶の事は本当に妹としてしか見てないよ」
「…そう」
「電話が来る度に切ない顔をする葵がたまらなく可愛くて自分を抑えるのに必死だった」
「そうやって。からかって遊んでたのね」
無性に腹が立った私は蓮の腕から抜け出すために身を翻す。しかしすぐ蓮に手首を捕まれ上から覆い被された。
「だけど、葵を愛してる気持ちは嘘じゃない」
「蓮…」
「お前の気持ちは?」
「…っ」
「お前の口からちゃんと言って」
「蓮。貴方を愛してる」
少年のような可愛らしい笑顔を見せた蓮は唇にキスを落とす。それは留まる事を知らず私達はその日1日ベッドから出る事はなかった。
蓮はヒトノモノではなくワタシノモノとなった。
FIN