ヒトノモノ

「遅いから来てみればどういうつもりだよ」




「・・・」





私を壁際に追い詰め行く手を阻むように私の体の脇には蓮の両腕がある。




「お前は隙がありすぎ」





「隙もなきゃ声もかけてもらえないわ」




「そんなに他の男が気になるのかよ」




「別に蓮の女じゃないんだから関係ないでしょ」




「…ったく、可愛くねーな」




蓮はふっと笑いをこぼすと私を真っ直ぐに見つめてくる。その眼差しに耐えきれず顔を反らした私が気に入らなかったようで頬に手を添えられ蓮の方を向かされた。




「イブはしっかりお洒落してこいよ」





私の耳元で息を吹きかけるように囁いたのはきっと確信犯だ。ビクッと体を揺らしてしまった私の負け。




勝ち誇った顔をした蓮は私の手からコーヒーを抜き取ると部内に戻って行った。




悔しい悔しい悔しい。昨日から私は蓮は振り回されてばかりだ。彼女が居ながら私に対して思わせ振りな態度を取る彼の意図が分からない。




蓮ってこんなに強引なヤツだっただろうか?



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