ヒトノモノ
「なんで逃げんだよ」
「・・・・」
「待たせたからか?それなら悪かった」
「違う。そんなんじゃない」
「だったら…なに?」
「とにかく帰るから。あとは2人でごゆっくり」
「は?なに言ってんだよ」
「いくら私でも恋人同士の邪魔はしないわよ」
「恋人?誰と誰が」
「蓮とさっきの彼女に決まってるじゃない。馬鹿にするのもいい加減にして!」
ポカンと気の抜けた顔をした蓮だったが、突如ハハハと高笑いをして嬉しそうに瞳を緩めると、私の頬を包みこみ綺麗に笑った。
「葵が嫉妬してくれるなんて嬉しいねー」
「嫉妬なんてしてない」
蓮はそのままギュっと私を抱き締めた。離れたくても力が強くて動けない。
されるがままでいた私の目にさっきの彼女の姿が映った。あ、と声を上げた私に反応して蓮も気づき腕の力を弱める。
ここじゃなんだからと蓮が言い、場所を移すことにして歩き始める。その間、私は蓮に手を繋がれたままだ。彼女が居るのにどういうつもり?