恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
私も送信すると、和泉くんは画面をしばらく見つめて操作した後、「大野莉子……」と小さな声で呟く。
私の名前が和泉くんの口から出た事にまた少し嬉しくなりながら、後ろ髪を引かれる思いで、じゃあそろそろと足元に置いた大きな鞄を持って立ち上がろうとした時。
胸のあたりまで伸ばしている、ゆるいウェーブのかかった髪が何かに引っかかって、痛みを感じた。
思わず、痛っ!と声を出した私に気づいた和泉くんが、私の髪が引っかかる先に視線を移す。
どうやら、鞄をとろうと頭を下げた時、和泉くんの鞄の外ポケットについているチャックに何本かの髪が引っかかってしまったらしく……。
数本とは言え、痛くて中途半端な姿勢でいる私の隣で、和泉くんがチャックから髪を外そうとしてくれる。
だけど思いの外、複雑に入り込んでしまったらしくて。
「いいよ、和泉くん。抜いちゃうから」
「抜く? 結構本数あるし痛いだろ。ハサミ持ってない?」
「持ってない……。あの、でもウェーブかかってて長いから多く見えるかもしれないけど、本当に数本だから大丈夫。
私の髪なんか気にしないで」
手こずらせても申し訳ないと思って言った私を、和泉くんは顔をしかめて見つめて。
少し黙ってから、わずかに顔をしかめさせたまま言う。