恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
「俺の部屋近いから」
「え……部屋?」
「そこでハサミ貸してやるから。でもあいにくチャックの方を壊してやるような優しい男じゃないから、髪の方を切ってもらうけど」
「それは全然……え、でも大丈夫だよ! そんな迷惑かけられないし……っ」
「髪が抜けないように大野が俺の鞄持ってろ。
大野のは俺が持って行くから」
大丈夫、そう強く言って遠慮しようと思っていたのに。
“大野”って呼ばれて、言葉が出なくなった。
そんな私に気づかずに、和泉くんは私の生活用品が入った重たい旅行カバンをふたつ手に持って歩き出してしまう。
和泉くんの後ろ姿をただぼんやりと見つめていたけれど、そのうちに早くしろと言われて、和泉くんの鞄を抱き締めるように持って後を追った。
呼び方が、“莉子”から“大野”に変わってしまっている事に少しショックを受けながら。