恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
上がってすぐ右横にキッチンがあって、左にはトイレやお風呂、そしてドアの閉められた部屋がひとつ。
奥には対面式キッチンと向かい合う形で広いリビングダイニングが広がっていて、そこにも部屋のドアがひとつあった。
玄関の前まではメルヘンの世界だったのに、部屋の中は極めてシンプルだった。
床が黒いタイルを敷き詰めたデザインみたいになってる以外は、普通の部屋だ。
造りが変わってる部分も見た限りない。
「すごく広いよね? 私の部屋の三倍くらいありそう……」
私の部屋って言っても、正確には今日まで過ごしていた部屋だけれど。
会ってからずっと思っていたけど、和泉くんはもうすっかり別の世界の人なんだと実感する。
もう、私の手が届いた頃の和泉くんじゃないんだなぁと。
お城なんかに住んでるし、なんかもう根本的に別世界の人……というか別次元の人だ。
最も、あの頃も手を伸ばしても指先が触れる程度の距離がふたりの間にはあったんだろうけど。
手紙が届かないくらいの距離が。
「ハサミ」
「あ、ありがとう」
渡されたハサミでチャックに絡んでいる髪を切る。
それから、目の前でその様子を見ていた和泉くんにハサミを返そうと差し出して、じっと見つめられていた事に気づいた。
観察するように私を見る瞳に、胸が高鳴る。