恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
呆れたというよりは、ただ微笑んだ感じで……無言の冷たい視線に軽蔑されると思い込んでいたから、拍子抜けしてしまう。
恐る恐る、どうかした?と聞くと、和泉くんは別にとだけ答えて前を向いてアクセルを踏んだ。
気持ち悪いニヤニヤした笑みを浮かべた事をツッコむわけでも軽蔑されるわけでもなく。
ただ微笑んでの放置プレイに戸惑いながら、熱くなった頬を両手で覆った。
今のが、まったくこいつはバカの極みだな的な笑みだとしても。
最近の和泉くんは、最初の頃に比べて優しくなったような気がする。
私の仕事のハズなのに家事を手伝ってくれたり、テレビ番組に対する必要のないような日常会話に付き合ってくれたり。
なにより、私に微笑んでくれる事が多くなった。
再会した時は、ポーカーフェイスの中に小さな微笑みを探すのさえ大変だったのに。
今の和泉くんはなんていうか……表情が柔らかい。
だからこそ、勘違いしてしまいそうになる。
もしかしたら……なんて期待をしているなんて、うぬぼれるにも程があるって分かっているけど。
自分じゃこの膨らんだ期待のしぼませ方が分からないし、むしろどんどん大きさを増していくだけだ。
どうすれば和泉くんの優しさや笑顔に過剰反応をしなくなるのか。
どうすれば和泉くんは私を何とも思っていないって思い知る事ができるのか。