人知れず、夜泣き。

 貧乏臭い・・・確かにウチは橘さんの家から比べたら貧乏かもしれないけれど、両親共働きの普通の一般家庭で、裕福ではないけれどひもじい思いをした覚えはない。

 コイツ・・・失礼だ。 てゆーか、嫌いだ。

 「『お金の事はキッチリしなさい』って、親に言われて育てられたもので」

 受け取らないのは分かっていたけれど、それでも1000円札を橘さんの近くに置いて、少し離れたところでワタシもまた作業を再開した。

 「・・・生真面目な女は、わがままな女よりめんどくせーかも」

 橘さんはそう言って1000円札をポケットに雑に突っ込んだ。

 本当に腹が立つ男だ。

 「不真面目よりましじゃないですか」

 こんなヤツ放っておけないいのに。 言い返さなきゃいいのに。

 「独り言ですよ。 誰も木内さんがそうだとは言ってないでしょ??」

 返事をした橘さんの目が『くそめんどくせぇ』と言っていた。

 「・・・ですね」

 もう喋らない。

 この男とは一生喋らない。
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