人知れず、夜泣き。
「橘くん橘くん。 ワタシの話、聞いてなかったでしょ。 ワタシはこの会社を辞める気はないの。 振られた後に気まずい思いはしたくないの。 だから、返事はしなくていいって言ったでしょ」
自分から告っておいて、返事をするなと言う木内。
え?? 意味分かんない。意味分かんない。
告られたオレが振られてんの??
「・・・あのさ、木内さん。 オレ、結構まじですよ。 てか、かなり真剣ですよ。 28歳の女性と付き合うんですよ?? 結婚する気で付き合いたいんですよ??」
いい加減腹立ちますよ。 オレを見縊ってもらっちゃ困りますよ。
「イ・・・イヤイヤイヤイヤ。 橘くん、まだ若いんだよ?! ワタシなんかに・・・縛れない!縛れない!!」
木内が両手と顔を左右にぶんぶん振る。
その顔を、両手で挟んで止める。
「結婚しようよ、木内さん。 オレは絶対木内さんを裏切ったりしないから。 ・・・だって、そんな事したら木内さん、酒持って徘徊しながら夜泣きするっしょ」
「・・・それ、てっぱんネタみたいに持ち出すの、やめてくれないかな」
木内が、唇を尖らせながらオレを睨んだ。