人知れず、夜泣き。



 一緒に帰らない口実が見つからず、とりあえずお店に施錠をして、タクシーが拾えそうな大通りに出た。

 ものの1分でタクシーを捕まえてしまう橘さん。

 停車したタクシーのドアが開くと、
 
 「どうぞ、乗って下さい」

 橘さんが『早く乗れ』とワタシの背中を押した。

 ・・・乗りたくない。 帰りたくない。

 「・・・あの、ワタシ助手席側の後ろが好きなので、橘さんが先に乗ってくれませんか??」

 ワタシの意味不明発言に、橘さんは思い切り嫌な顔をし、『変な女』と気持ち悪いものを見るかの様な視線をワタシに飛ばすと、先にタクシーに乗り、運転手側の後部座席に身体をずらした。

 「すみません、B町まで!!」

 そう運転手さんに伝えると、タクシーには乗らず思い切りドアを閉め、タクシーの進行方向と真逆の方向に走った。

 ドアが閉まる間際、橘さんの『オイ!!』と言う大きな声がしたけれど、聞こえなかった事に。

 きっと明日、何か言われる。

 でも、明日の心配はまず今日を乗り越えてから。
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