人知れず、夜泣き。


 「・・・あの、前から不思議だったんですけど、なんで橘さんは販売員をしているんですか?? 次期社長でしょ?? 社長の元で社長業務の補佐とかしなくていいんですか??」

 微妙な空気を断ち切るように、今度は木内が話を変えた。
 
 確かに木内の言う通り、オレは販売員をする必要がない。

 なのにやるのは、

 「『コネ入社で宝飾の1つも売った事ないくせに』とか言われたくねぇから。 成績上げて陰口叩いてる奴らを黙らせたいんだよね」

 ただの意地。

 「・・・だからか。 棚卸しをラストまで引き受けたのも、みんなに陰口叩かせない様にか・・・。 ・・・でも、良かった」

 木内が何故かニッコリ笑った。

 良かったって何が?? いちいちいちいちわけの分からん女だな、木内。 だから振られるんだよ。

 眉間に皺を寄せるオレに、木内が嬉しそうに口を開いた。

 
 「橘さんが、次期社長で良かった。 ワタシより年下だけど、尊敬出来ます」

 木内の言葉が、素直に嬉しかった。

 初めて、認めてもらえた様な気がした。
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