人知れず、夜泣き。



 シゴトに行く悟を見送って、出勤時間までスマホで物件情報を検索する。

 早く引っ越したい。 ここにいるのが辛くて仕方がない。

 出勤途中、電車を待つわずかな時間もスマホをガン見。

 お昼休み、屋上で橘さんを待つ間もスマホを凝視。

 ---していたら、後ろに橘さんがいる事に暫く全く気が付かなかった。

 「木内さん、引っ越すんだ??」

 ワタシの背後からスマホを覗き込む橘さん。

 「あ!! ・・・昨日、正式に別れまして・・・早急に引っ越さなきゃいけないので。 ・・・あの、おっきいお弁当箱が無かったのでタッパーで申し訳ないんですが・・・どうぞ」

 橘さんにお弁当を渡し、スマホチェック再開。

 「彼氏の浮気でしょ?? 出てくのは彼氏の方でしょ、普通。 つーか、唐揚げ超絶美味いんですけど」

 そんなワタシの隣で、今日も橘くんが美味しそうにお弁当を食べてくれる。

 やっぱり、『美味しい』って言われると嬉しい。

 「・・・そうだけど、あの部屋には思い出が多すぎて・・・あそこで暮らし続けるのは辛い」

 出来る事なら早く忘れたい。 辛くて辛く て仕方がない。

 「そっか。 良い部屋見つかるといいね」

 「うん」

 イヤ、最早多少の事は目を瞑る。

 一刻も早く引っ越したい。
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