人知れず、夜泣き。


 「あ、これ。 お弁当代」
 
 スマホに夢中のワタシに、橘さんが1000円札を手渡して来た。

 「このお弁当、1000円もしません」

 「手間賃と感謝込み込みの1000円。 黙って受け取って」

 受け取ろうとしないワタシに、橘さんが強引に1000円札を握らせた。

 ・・・感謝込み。

 悟はワタシが料理を作っても『美味しい』とも『ありがとう』とも言わなかったのに。

 面倒臭かったけど、橘さんの為にお弁当作って良かった。

 「・・・でもさぁ」

 橘さんが不満そうな声を出した。

 でもさぁ?? 何?? ワタシ、今イイカンジにほっこりしてますけど?!

 「今日のもめっさ美味かったんだけど、オレは昨日みたいな弁当が良いんだよね。 木内さんさぁ、今日ちょっと無理矢理オシャレに作ったっしょ??」

 今日のワタシの努力を見透かした橘さんが、苦笑いを浮かべた。

 バレてたかー!! 恥ずかし!!

 「・・・だって、次期社長のお弁当ですよ!?? ワタシと育ちの違うお金持ちさんが食べるお弁当ですよ!?? そりゃあ、気遣いますよ」

 「そういう気遣い、まじいらない」

 そして、ワタシの言い分をバッサリ否定する橘さん。

 ・・・ショックだ。 めっさ頑張って作ったのに。
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