人知れず、夜泣き。
「ねぇ、木内さん。 連絡先交換しようよ」
橘さんが『木内さんも携帯出して』と促す。
2人で連絡先を教え合う。
ワタシのアドレスに、橘さんが加わった。
「たまにだったら、愚痴聞くから遠慮なくかけて」
橘さんがそう言いながら、携帯をスーツのポケットにしまった。
「・・・『遠慮なく』のわりには『たまに』なんですね」
橘さんの言葉が、なんかちょっと引っかかって、ツッコむと、
「さすがに、毎日愚痴聞かされるのは無理。 木内さん、昨日も泣いたっしょ?? 今日も目、腫れてるし。 そんなになるまで泣かないとやりきれない時とかは、聞いてあげる」
暗に『限界な時だけ付き合ってあげる』的な言い方で返された。
「・・・聞いてあげる・・・上からですね」
「後々上司になるからね、オレ」
確かにそうだが、『後々』とは言うものの、既にワタシを先輩扱いしていない様に思える橘さん。
「でも、今はワタシと同じ平社員じゃないですか。 そして、ワタシの方が先輩です」
ちょっと胸を張ってはみたが、先輩って言ったって、ただ年上で橘さんより先に入社したってだけで、橘さんより何かが優れているわけではないのだけれど。
「・・・じゃあ、なんでオレに『さん』付けなの?? なんで敬語で話すの?? 木内さん、先輩なんでしょ?? オレの同期の男 はみんな『くん』付けなのに、なんで全員オレだけ『さん』付けで呼ぶわけ??」
橘さんが、少し苛立った様な、でもどこか悲しそうな表情でワタシに詰め寄ってきた。