人知れず、夜泣き。
 
 「後々上司になる人だからですよ。 ずっと『くん』で呼んでた人を上司になった途端に『さん』に変えるのって結構難しいじゃないですか。 だからみんな、橘さんの事は最初から『さん』付けなんですよ」

 ワタシの返答に、橘さんがますます顔を顰めた。

 が、橘さんが何かを思いつたかの様に、少し口角を上げた。

 確実に何かを企んでいる顔だ。

 「・・・社長命令って絶対だよね?? じゃあ、次期社長命令だって絶対なはずだよね??」

 「社長命令って、絶対ってわけじゃなくないですか?? 横暴が過ぎると会議で辞任に追いやられることだってあるじゃないですか」

 橘さんの言う事に首を傾げながら反論すると、

 「オレを辞任に追いやろうとするヤツなんて、そうなる前にクビを切る」

 橘さんが『斬首!!』と言いながら、刀を振り下ろす真似をした。

 ・・・コワイ。

 何で突然恐ろしい事言い出してんの?? このひと。

 キレやすいの?? と思ったら、

 「木内さん、これから敬語禁止。 あと、オレの事は『くん』付けで呼んで。 オレが社長になっても呼び方変えちゃダメ。 次期社長命令です」

 橘さんが少年みたいに『ニカッ』と笑った。

 ・・・かわいい顔で笑うもんだ。

 ・・・てゆーか、

 「今更無理ですよ」

 もう『橘さん』で慣れちゃってるし。

 「木内さん、クビ切られたいの??」

 橘さんが、今度は『断頭!!』と言いながら、刀を横から振り切る仕草をした。

 かわいい顔で笑う橘さんは、若干ワガママお坊ちゃまだ。
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