人知れず、夜泣き。


 「最後まで残れるの、木内さんと橘さんだけみたい。 悪いんだけど、みんなの終電までに数え終わらなかった分は2人にお願いしていい??」

 店長が申し訳なさそうに両手を合わせた。

 「はい。 任せて下さい」

 店長にも笑顔を返す。

 「助かるよ、木内さん」

 店長は『ポン』とワタシの肩を叩くと、百花と一緒に自分の持ち場に戻って行った。


 「橘さんかぁ・・・」

 橘さんはこの宝飾店の社長の弟の息子らしい。

 社長の一人息子は、店を継ぐ事はなく弁護士をしているとの事。

 そんな息子の代わりに、橘さんが次期社長になるらしい。

 そんな橘さんは今年入ったばかりの新入社員。

 新入社員だけれど、後々上司になる彼を、皆『さん』付けで呼ぶ。

 陰では『コネ入社』と嫌味を言いながら。
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