人知れず、夜泣き。



 予想通り、みんなの終電までに棚卸しは終わらなかった。

 橘さんと2人、黙々と在庫を数える。

 言葉は交わさない。

 世間話をするほど仲が良い訳でもないし、橘さんは一刻も早く帰りた気だし。

 だったら『オレも終電なんで』って言って帰ればいいのに。

 沈黙の中作業を続けていると、

 「オレ、ちょっとトイレ行ってきます」

 橘さんが席を外した。


 「ふー」

 肩の力が抜けた。

 正直、やり辛い。

 重かった空気が、途端に吸い易くなった気がした。

 深呼吸をして、棚卸しを続ける。





 ・・・・・・遅い。

 橘さんが帰って来ない。

 『トイレに行く』と言って30分は経ったと思う。

 ・・・おっきい方かな。

 お腹、壊したのかな。

 あまりの痛み耐え切れなくなって、トイレの辿り着く前に倒れてたりしないよね??

 ・・・探しに行った方がいいかな。

 だって遅すぎる。
< 8 / 161 >

この作品をシェア

pagetop