人知れず、夜泣き。
予想通り、みんなの終電までに棚卸しは終わらなかった。
橘さんと2人、黙々と在庫を数える。
言葉は交わさない。
世間話をするほど仲が良い訳でもないし、橘さんは一刻も早く帰りた気だし。
だったら『オレも終電なんで』って言って帰ればいいのに。
沈黙の中作業を続けていると、
「オレ、ちょっとトイレ行ってきます」
橘さんが席を外した。
「ふー」
肩の力が抜けた。
正直、やり辛い。
重かった空気が、途端に吸い易くなった気がした。
深呼吸をして、棚卸しを続ける。
・・・・・・遅い。
橘さんが帰って来ない。
『トイレに行く』と言って30分は経ったと思う。
・・・おっきい方かな。
お腹、壊したのかな。
あまりの痛み耐え切れなくなって、トイレの辿り着く前に倒れてたりしないよね??
・・・探しに行った方がいいかな。
だって遅すぎる。