人知れず、夜泣き。
肉が決まり、野菜コーナーに向かった時だった。
突然木内の足がピタッと止まった。
木内の目が、前方から来る1組のカップルを捕らえていて、そのカップルの男の方もまた、木内を見ていた。
木内の様子ですぐ分かった。
・・・あれが、木内の元カレか。
あれが、木内を捨てた男。
カップルの女の方が、只ならぬ空気に気が付いた。
通り過ぎてくれればいいのに、オレらの前で立ち止まる、木内の元カレとその彼女。
「悟の知り合い??」
女が木内の元カレの腕を揺する。
「あ・・・ワタシ、今野くんと大学が一緒だった木内といいます。 初めまして」
木内が慌てて笑顔を取り繕った。
大学が一緒・・・。 多分それは事実なんだろうな。 さすがに『元カノ』とは名乗れないよな。
「ワタシは悟と同じ職場の後輩で、佐藤といいます」
佐藤は礼儀の正しい、カンジの良い女のコだった。
もっと嫌なヤツだったら『あんな女に引っかかって、バカな男』など言いながら、木内がここまで落ち込む事もなかったのかもしれない。
「お隣のイケメンさんは、木内さんの彼氏さんですか??」
佐藤さんが微笑みながらオレに会釈をした。
「初めまして。 木内さんと同じ職場の後輩の橘です」
『彼氏です』と嘘を吐いてやろうと思ったが、多分木内は速攻で否定するだろうから、『違います』とも言わずに、オレもまた事実だけを伝えた。