いとしいあなたに幸福を
――何で、お前は笑えるんだ。

どうして誰も妬まないんだ。

俺は、お前が不憫でならない。

初めての恋にしては過酷な相手を好きになったことも、幼いお前が誰にも不満を洩らさないことも。

弱さを見せないお前が唯一自分に見せた涙ですら、単なる悲しみや妬みだけの顕れではないのだろう。

悠梨は愛梨の髪をゆっくり撫でてやった。

「有難う、お兄ちゃん」

愛梨は泣きそうな震える声で、小さく呟きながら悠梨の胸元に顔を埋めた。

でも、もう愛梨は泣かなかった。


 * * *

 
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