いとしいあなたに幸福を
「……今日は天気が悪いな」

しとしとと降り頻る雨を眺めながら、周は小さく溜め息をついた。

「ええ、こんな日は外に出ても濡れるだけですし。絶好の学習日和ですねえ?」

そう言って満面の笑みを浮かべる陽司に辟易しながら、周は窓縁に腰を下ろした。

「周様?そんなところにおられると風邪をひいてしまわれますよ」

「平気だよ。生まれつき、身体は丈夫なんでね」

周は、今までに風邪一つひいたことすらない。

幼い頃から専属の医師がいるものの周が健康そのもの過ぎるため、その腕の見せ場は今まで一切ない。

「まあ存じておりますが…万が一ということもありますし一応」

「…陽司は、俺が跡継ぎだから心配してんだろ?その辺にいるただの悪餓鬼だったら、そんな心配しないんだろ」

周の問いに、陽司は不思議そうに首を捻った。

「周様がお世継ぎでなかったら…ですか」

「そう」

「難しいですね…俺がこうして周様にお仕え出来ているのは、厘様に拾って頂いたお陰ですし。別の出逢い方はなかなか想像つかないですよ」

解っている、我ながら妙な質問を投げ掛けたと。

ただ、領主の息子ではない自分とはどんなものなのだろうかと想像してみたかっただけで。

「…でも、どんな知り合い方をしたってきっと俺は貴方が心配だと思います。どうも周様は危なっかしいですから」

「なっ」
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