いとしいあなたに幸福を
苦笑しながら語る陽司の言葉に、周は嬉しいような恥ずかしいような、妙な気分に陥った。

「領主子息相手に随分な物言いじゃねーか、陽司」

「うわ、こういうときばっかり思ってもないこと言って」

周は陽司と顔を見合わせると、揃って笑みを零した。

(しかし…陽司も良く笑うようになったな)

――陽司は、幼い周の遊び相手として厘が身寄りのない子供たちの中から引き取った子供の中の一人だ。

邸に引き取られた当初の陽司は、人間不信のきらいがあり干渉しようとする人間に対して非常に攻撃的だった。

何故厘がそんな子供を周の遊び相手に選んだかと言うと、少し癖があるくらいが周には合っているだろう、なんて理由らしい。

そんな陽司も、周と打ち解けていくうちにすっかりと丸くなり、そのまま周の付き人として仕えることになったのだが。

今や周囲からは周の一番の理解者であり一番の苦労人、なんて評されている。

「――周様、失礼致します」

不意に、扉を叩く音に続いて声が掛けられた。

「美月(みづき)か?いいよ、入って」

窓辺に腰掛けたまま返答すると、周よりも幼い少女が一礼して部屋に入ってきた。

少女は、ひらひらと手を振る周には応じず端的に用件だけを述べた。

「奥様がお呼びですわ。取り急ぎ執務室までいらしてくださいませ」

「了解。何の用件かは言ってたか?」

周は窓縁からすとんと飛び降りると、美月と呼んだ少女の傍へ歩み寄った。
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