いとしいあなたに幸福を
「きょう?」

「字は違うけど、私の名前と同じ意味なのよ。それに…響きもあなたの名前と少し似ているから」

京、か。

「…うん、いい名前だと思うよ。俺も気に入った。その名前が都からこの子への、初めての贈りものだな」

「……それに、この子を呼ぶとき私のことも思い出して貰えるでしょう?」

「っ…都?」

まるで別れを予感しているかのような都の口振りに、周の心はざわついた。

「あなた…私のことを愛してくれて、ありがとう……私にとってあなたは、いつも明るく私を見守ってくれる…陽の光だった……それにあなたは優しいから、私だけを見ようと努めてくれた…」

どきりと胸が高鳴った。

都は、見抜いていたのか――この心の内側に潜む気持ちを。

「それでこの子を…京を授かって…無事に産んであげることが出来たから……私は幸せだったわ」

「都…なに、言ってるんだよ…?これからずっと二人で京が大きくなるのを見守っていくんだぞ……なに、言ってる…」

無理矢理引きつった笑いを見せた周に、都は首を振った。

やめろ。

それ以上、もう何も言わないでくれ。

「…私も、あなたや京と、もっと一緒にいたかった……でも、私はもう…」

「馬鹿だなっ…そんなの気の持ちようだよ!!しっかりしろっ…お前は疲れてて弱気になってるだけだ!!」

手を握る掌の力と、周の名を呼ぶ声が次第に弱々しくなってゆく。
< 120 / 245 >

この作品をシェア

pagetop