いとしいあなたに幸福を
「あ…なた…」

周は咄嗟に都の身体を掻き抱いた。

事態を察知した付き添いの看護師が、俄に廊下へ駆け出してゆく。

「私には、もう……」

「都っ…!都、駄目だ…!!誰か…!誰か来てくれ…都が…!!」

備え付けの通話装置へ、必死で呼び掛ける。

俄に廊下が騒がしくなったが、都は再び力なく首を振った。

「…あなた……お願い、私の…眼を見て……」

「都…っ?」

その蒼い空色の眼を覗き込むと、都は満足げに微笑んで周の頬にそっと両手を添えた。

「愛しい、あなた……京を…私の分までたくさん愛してあげて…」

――次の瞬間、都の両手からすとんと力が抜ける。

「っ…!」

先刻まで周を見つめていた筈の眼は閉ざされ、呼吸が止まる。

「都!!」

呼び掛けても、掌を握っても、周の声も温もりも都へはもう届かなかった。


 * * *

 
< 121 / 245 >

この作品をシェア

pagetop