いとしいあなたに幸福を
「――っ貴女のせいだ…!」

都の葬儀を終えるや否や、周は感情の赴くまま厘に噛み付いた。

「…何です、周。不躾に」

「貴女が都に出産を強制しなければ都は死なずに済んだっ…貴女が俺を産まなければ、都は俺と結婚せずに済んだんだ!!」

既に全身に麻痺が回り介助なしでは起き上がることすら儘ならない厘は、寝台に身を預けたまま不快感を露に眉を顰めた。

「都さんのことは、勿論私も残念に思っているわ。秋雨の御実家からも、彼女の病状を案じる連絡が何度も来ていたし」

「俺が言いたいのはそんなことじゃない…!!何故、俺を産んだんだ…っ何故跡取りとして育てた…!!父親のいない不出来な息子に、領主を継がせるなんてそもそも無理だったんだよ!!」

「…言いたいことはそれだけ?」

まるでこちらの神経を逆撫でするかのような辛辣な言葉に、周は大きく息を吸い込んだ。

「これだけなもんか!!あり過ぎてすぐ言葉にならないくらいですよ、母上…!!俺には貴女の跡を継げる資質も経験も、何もないんです!!けど貴女にとって俺は跡継ぎとしての価値しかない…!貴女は俺を息子としては見てくれない…!!」

「十六にもなって何を甘えたことを言っているの?落ち着きなさい、周」

最早、母の口にする言葉全てが癪に障り苛立ちを覚えた。

「貴女が一度でも俺を甘やかしたことがありましたか!!貴女はいつだって、俺に不相応な成長を強要してきたじゃないか!!」

物心ついた頃からずっと、早く大人になれ、いつまでも子供のような言動を取るな――そう言われ続けてきた。

周には一度でも母に優しく頭を撫でられた記憶や、両手に抱き締められた記憶はない。

「貴女が大切なのは周という名の息子ではなく、自分の跡を継いでくれる人間だろうっ!?」

次々と言葉を捲し立てる周を、厘は鋭い眼光で射抜いた。

すると、周の身体が勢い良く壁に叩き付けられる。
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