いとしいあなたに幸福を
「うぐっ…!」

「まだ貴方を黙らせる程の力なら残っているのよ。…駄々を捏ねるのもいい加減になさい」

言われた通り――霊力を使われては未だ母には敵わない。

「…貴女が未婚のまま俺を産んだせいで、俺は本来ならばせずともいい筈の苦労をずっと強いられてきたっ…なのに、何で俺が貴女の我儘に振り回されなきゃならないんだよっ!!」

それでも周は、自身の情けなさの余り悔し紛れの言葉を吐き捨てた。

「周…」

「俺はただ、貴女に愛して欲しかったっ…領主だなんて関係ない、ただの母と子として接して欲しかっただけなのに…!!」

――だから今まで、貴女の言う通りにしてきた。

そうすればいつかきっと、貴女が俺を愛してくれると思っていた。

そこまで口にすると、周は再び痛みが襲ってくることを予測して身構えた――が、何も起こらなかった。

「………っ?」

咄嗟に瞑った両眼をそろそろと開くと、厘は目を伏せて押し黙っていた。

「……確かに私は、お前やあの人が何も訊かないことに甘えていたかも知れない」

暫しの沈黙の後、厘が口を開く。

予測していたよりも弱々しい声色に、昂っていた周の感情は一気に萎(しぼ)んでいった。

「あの人は今のお前のように真っ直ぐ気持ちをぶつけてくれたのに、私は逃げたの。…春雷の政局に巻き込みたくなかったなんて、ただの言い訳」

以前に父のことを話してくれたときより、母は気落ちしているように見えた。

「お前を立派な領主に出来れば、お前が跡継ぎになることを反対した者もお前を認めてくれると思っていた。今は解らなくとも、お前もいつか解ってくれると思っていたのよ」
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