いとしいあなたに幸福を
陽司は険しい面持ちで小さく首を振った。

「厘様の葬儀のとき、周様が俺に言ったんだ。“俺が愛したから都は死んだ、俺が愛して欲しいと願ったから母も死んだんだ”……って」

「なっ…」

「周様は以前からご自身の出生に疑問を持っている節があったから…今回のことで尚更、自己嫌悪に陥ってらっしゃるのかも…」

其処まで聞いた悠梨は思わず、陽司に背を向けて駆け出した。

「悠梨くん!?」

「俺っ…あいつのところに行かなきゃ…!」

「でも、今の周様は…っ!」

陽司が躊躇いがちに声を上げた。

解っている。

今まで何度も部屋の扉の前に足を運んだが、こちらの呼び掛けに周が応えることはなかった。

扉を開こうとすれば、周が何かしらの結界を張り巡らせたのか見えない力に弾き返された。

きっと今悠梨が行ったところで、何か変わる訳でもない。

それでも。

どうしても周に伝えたいことがある。

「あの馬鹿…!」

全てを拒む周のことを思うと、悠梨の胸中は張り裂けそうになった。


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