いとしいあなたに幸福を
――月が綺麗だ。

横目で眺めた窓の外から、注ぐ月明かりを受けてそんなことをぼんやりと思った。

『…お前の髪は、月の光を集めて紡いだような色ね。あの人と、おんなじ』

遠い昔に、優しく髪を撫でられながらそんなことを言われた気がする。

いつ、誰が、言っていたのか――もうそんなことは思い出せないしどうでも良くなってきていた。

自分の身体がゆっくりと、だが確実に弱ってゆくのを感じる。

全身に上手く力が入らない、そろそろ自力で立ち上がるのもつらいかも知れない。

もう何日目になるか――自分の身体を虐め抜くかのように食事をせず、水も殆ど摂らずにずっと過ごしていた。

それでも最初のうちは、元々身体が丈夫だったせいかなかなか弱らなかった。

最近になって漸く、指一本動かすのも億劫になってきた。

このままこうしていれば、死ねるだろうか。

――死にたい訳ではない。

でも、生に縋り付きたい訳でもない。

どうすればいいのか解らないのだ。

もう何も考えたくない、何も触れたくない。

でないと、大切なものを失ったときに心が耐え難い程の苦痛に押し潰されてしまう。

こんなに苦しい想いをするくらいならば、もう誰とも関わり合いになりたくない。

だったらこのまま、消えてしまいたい――
< 132 / 245 >

この作品をシェア

pagetop