いとしいあなたに幸福を
「周!!」

不意に、扉の向こうから静寂を切り裂く怒声が飛んできた。

この声は…確か、悠梨か。

「おい周、聴こえてるか!?」

聴こえてるよ、悠梨。

でも、返事をする気が起こらないんだ。

「いい加減に、出て来いよ…!みんなお前のことを心配してるんだぞ…?!」

みんな……みんな?

誰が?

誰を、心配している?

“周”という一人の人間をか。

それとも厘の子として“領主を継ぐ”人間のことを?

「周…!」

どちらにしても、もうこれ以上、自分と関わり合いにはならないでくれ。

俺のせいで誰かが傷付いたり、いなくなってしまうのはもう嫌なんだ。

「お前がいたから、俺は今此処にいるんだぞ…!?お前がいなかったら俺はあの日、死んでたかも知れない…!!俺だけじゃない、愛梨も俺も、お前のお陰で今この春雷にいられるんだぞ!!」

…愛梨。

嘗て自分が心を寄せた、少女。
< 133 / 245 >

この作品をシェア

pagetop