いとしいあなたに幸福を
悠梨は俯いたまま自室に駆け込むと、扉を閉めたところでふと顔を上げた。

「お兄ちゃん…?」

すると先に戻ってきていた愛梨が、部屋の奥から出迎えた。

「どうしたの?少し落ち着かないみたい…」

「いや、大したことじゃないよ」

愛梨が心配げにこちらを見上げるので、ごまかすように少し強引に頭を撫でてやる。

「…お前は何かあったか?何だか嬉しそうだな」

「うん、わたしね…明日から京くんのお世話係になれるんだ。みんなと相談させて貰って…いいんじゃないかって言って貰えて」

ああ、この前言っていた話か。

やはり使用人一同、愛梨が京の世話係になることに異論はなかったらしい。

「勿論、わたしみたいな子供じゃ一人じゃ出来ないから…咲良さんのお手伝いをさせて貰えるってことなんだけど」

「そうか、良かったな愛梨。お前、買い出し当番で出掛けるときいつも京のことが心配だったんだろ?」

「うん…前にわたしのこと呼びに来てくれた人が大変だったみたいだから…これからはいつでも傍にいてあげられるから、嬉しい」

別の仕事をしている最中に呼び出される愛梨も呼びに来る人も大変だったが、これでその手間は解消される。

「それにしてもあの子は、お前が傍にいると何で泣き止むんだろうなあ」

ふとした疑問を口にすると、愛梨も困ったように首を振った。

「解らないけど…私が傍にいるだけで京くんが泣かなくて済むなら、なるべく傍にいてあげたいの。疲れるまで泣かせておくしかないなんて、可哀想だもの…」

「…そうだな」
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