いとしいあなたに幸福を
ちょうど愛梨が不在の折に、京が泣き出した場面に居合わせたことがある。
京は一度ぐずり始めると、聴いているこちらが不憫になる程に泣き喚き続けた。
そのとき“愛梨と似ているから、物は試しで”という理由で悠梨も泣いている京を抱かされたのだが、全く効果はなかった。
しかし、急いで駆け付けた愛梨が抱き上げてやると、確かに京は泣き止んだのだ。
「…あのね、お兄ちゃん。わたし、京くんのお母さん代わりになれたらいいなって、思うの」
「え…?」
悠梨が顔を顰めると、愛梨はゆっくり首を振って見せた。
「勿論、本物のお母さん…都様に敵う訳ないって解ってるよ。私がどんなに頑張っても、私は単なるお世話係でしかない。それでも…せめて京くんが寂しい想いをしなくていいようにしてあげたくて」
「愛梨」
お前はまた、そうやって――
「…お前は、それでいいのか?」
低く唸るように声を上げると、愛梨は真っ直ぐにこちらを見返してきた。
だから悠梨は出来るだけ愛梨を傷付けないように、慎重に言葉を選んで話を続けた。
「お前の決めたことに、水を差したい訳じゃないが……お前はまだ十二だよ」
誰の目から見ても、愛梨はまだまだ年端のゆかぬ子供だ。
子供が赤ん坊の母親になるだなんて、母親になりたいだなんて――誰が聞いても笑うだろう。
笑うどころか叱責されてもおかしくない。
「お前にはきっとこれから、まだ沢山の人間と出逢う。周より好きになる奴が…出来るかも知れない。なのにお前は、あいつとその子供のために、これからもずっと生きたいと本気で思ってるのか?」
京は一度ぐずり始めると、聴いているこちらが不憫になる程に泣き喚き続けた。
そのとき“愛梨と似ているから、物は試しで”という理由で悠梨も泣いている京を抱かされたのだが、全く効果はなかった。
しかし、急いで駆け付けた愛梨が抱き上げてやると、確かに京は泣き止んだのだ。
「…あのね、お兄ちゃん。わたし、京くんのお母さん代わりになれたらいいなって、思うの」
「え…?」
悠梨が顔を顰めると、愛梨はゆっくり首を振って見せた。
「勿論、本物のお母さん…都様に敵う訳ないって解ってるよ。私がどんなに頑張っても、私は単なるお世話係でしかない。それでも…せめて京くんが寂しい想いをしなくていいようにしてあげたくて」
「愛梨」
お前はまた、そうやって――
「…お前は、それでいいのか?」
低く唸るように声を上げると、愛梨は真っ直ぐにこちらを見返してきた。
だから悠梨は出来るだけ愛梨を傷付けないように、慎重に言葉を選んで話を続けた。
「お前の決めたことに、水を差したい訳じゃないが……お前はまだ十二だよ」
誰の目から見ても、愛梨はまだまだ年端のゆかぬ子供だ。
子供が赤ん坊の母親になるだなんて、母親になりたいだなんて――誰が聞いても笑うだろう。
笑うどころか叱責されてもおかしくない。
「お前にはきっとこれから、まだ沢山の人間と出逢う。周より好きになる奴が…出来るかも知れない。なのにお前は、あいつとその子供のために、これからもずっと生きたいと本気で思ってるのか?」