いとしいあなたに幸福を
大切な妹の一生を、こんなにも早く決定付けさせたくはない。

それがたとえ、妹自身の選択だとしても。

「一度決めたら、途中で嫌になっても心変わりしても、投げ出せないんだぞ。そんな半端な気持ちで臨んで、傷付くのは京だ」

愛梨が無責任なことを軽々しく口に出す筈はないと、重々承知はしていた。

きっとこうして話すに至るまでに、考えて悩んで、その上で口にしてきたのだと解っている。

それでも京の母親代わりになりたいだなんて言葉は、言って欲しくなかった。

賢(さか)しい妹は、悠梨の言葉の意図を理解しているだろうか。

「うん…いつだってお兄ちゃんはわたしが傷付いたり苦労しないように考えてくれる。世間知らずで子供なわたしが、生意気なことを言ってるって解ってるの。それでもわたし…周さんと京くんの力になりたい」

決意を固めた愛梨の強い眼差しを、悠梨は渋い表情で見つめ返した。

「……愛梨…」

「我儘言って、ごめんなさい…でもわたしは将来好きになるかも知れない誰かを待つより、周さんを好きなままでいたい」

「……どうしてお前は、其処まで周のことを想い続けられるんだ?」

この二年、あいつを想い続けて。

何の見返りもなく、今や傍にいるだけでもつらいことのほうが多いのに。

「どうして…だろ。初めは憧れと恋を勘違いしてるのかなって、考えたこともあるよ」

確かにこのくらいの年頃の娘なら、色恋沙汰に憧れてふとした感情を恋心と勘違いすることも多いだろう。

しかし愛梨は、男女を問わず人当たりが良く親しまれる性格故にか、他人はともかく本人は恋愛事に疎かった。

そんな妹が、突然恋愛の真似事に陶酔し始めるとは考え難い。
< 139 / 245 >

この作品をシェア

pagetop