いとしいあなたに幸福を
「…周様?周様、どうされました?」

気が付くと、周の顔を心配げに陽司と美月が覗き込んでいた。

「…え、ああ。何でもない」

「奥様がお待ちですよ、お急ぎくださいませ」

「うん。行ってくる」

余り心配をさせないよう二人にへらりと笑って見せると、周は厘の待つ部屋へと急いだ。



「――母上、周です」

執務室の扉を叩くと、向こう側からお入り、と厘の声が応えた。

中へ進むと、車椅子に腰掛けた厘の姿が周を出迎える。

「…遅かったわね、周。美月は途中で寄り道でもしていたのかしら?」

厘の声は少し苛立っているようだった。

「…いえ、俺がこちらに向かうのが遅れただけです。美月には非はありませんよ」

「そう。ところで周、何故私に呼ばれたか解っているかしら」

十中八九美月の言う通り縁談に関することだろうが、他に厘から呼び出されるようなことは――結構思い当たるので困る。

「先日上がっていた、縁談の話ですか」

「…確かにそれもあるのだけれどね、陽司から聞いているのよ。お前が最近、邸を抜け出して何をしているかを」

どきりと心臓が高鳴った。
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