いとしいあなたに幸福を
「でも、違う……わたしにとって周さんは、自分より幸せになって欲しいひと、なの」

自分よりも。

もうあいつは、お前の中でそんな大きな割合を占めているのか。

「…俺も、そうだよ。お前に、誰よりも一番幸せになって欲しい」

だから周が恩人であり親友であるとはいえ、兄貴としては複雑だ。

周が結婚してしまったあのとき、恨まれてでもこの邸を出たほうが良かったのか。

都の懐妊が判ったあのとき、嫌われてでも周をお前の元に行かせないほうが良かったのか?

どうすれば――

「お兄ちゃん…でも、わたし……やっとわたしにしか出来ないことを見付けたの。わたしはそれをずっと、ずっと探してたから」

「…………」

「やっと周さんに恩返し出来るの…だからわたし」

「もういい」

素っ気なく言葉を遮った瞬間、妹は悲しげな表情で口を閉ざした。

「お兄…ちゃ……」

少し強引にその腕を引くと、叱られると思ってか愛梨は眼を閉じて身を縮める。

「…全く。お前は聞き分けがいいのに、自分で決めたことには昔から頑固だな」

悠梨は大袈裟に溜め息をつきながら、再び愛梨の髪を撫でた。

「…なら俺が、お前と周たち親子を守る壁になってやる。俺がお前を支える柱になる。だから…絶対に一人で抱え込むなよ」
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