いとしいあなたに幸福を
周の部屋の扉が、暫く振りに開かれている。

邸の外観から見上げたとき、ずっと閉め切られていた室内の窓掛けも開け放たれていた。

その部屋の傍へと、愛梨はゆっくりと近付いた。

――周は、寝台の上に上体だけ起こして食事をしていた。

以前より少し痩せており窶(やつ)れた表情をしていたが、命に別状はなさそうだ。

「…愛ちゃん」

ふと、周が扉の前に立つ愛梨の存在に気が付く。

だが周はすぐに愛梨からふいと視線を逸らしてしまった。

「周さん」

「俺の、息子…君に懐いてるんだって?面倒かけて、ごめんな」

「い、いえ…」

俯きがちに笑った周に、愛梨は少し違和感を覚えた。

以前の周なら、ちゃんとこちらの眼を見て話をしてくれたのに。

しかし悠梨が陽司から聞いた話に依れば、閉じ籠る直前の周は他人と接することを恐れていたらしいから、視線を合わせてくれないのもそのせいだろうか――

「周!!」

すると其処へ、兄が息を切らせて駆け込んできた。

「お兄ちゃん」

「愛梨…先に、来てたのか…」
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