いとしいあなたに幸福を
悠梨がくるりと周に向き直ると、周はばつの悪そうな表情で笑っていた。

「悠梨……色々有難うな。俺…」

周が辿々しく言葉を紡いでいるのに、まるで悠梨は聞いていないかのようにつかつかとその傍に歩み寄った。

「周、こっち向け」

「あ?」

周が顔を上げた瞬間、悠梨は周の両頬をべちんと叩いた。

「いっ…!!」

「おっ、お兄ちゃんっ?!」

痛がる周と慌てる愛梨をよそに、悠梨はくすりと笑う。

「…御託はいいから、早く元気になれよ。それで、息子にその間抜け面見せてやって、俺の愛梨の負担を軽くしてくれ」

「だっ…誰が間抜けだよ、誰が…!」

「俺の目の前にいる、お前だよ。この馬鹿野郎が」

さらりと言って除けた悠梨に、周は再び苦笑した。

「っ…はは」

その様子だけは、以前の周と悠梨の遣り取りと余り変わらないように見えた。

「ああ…本当に」

頬を軽く擦りながら、周は小さく自嘲の笑みを浮かべた。

「碌でもない馬鹿だな、俺は」
< 146 / 245 >

この作品をシェア

pagetop