いとしいあなたに幸福を
厘は優れた霊媒師でもあり、対象の行動を見透す霊視という術を得意とする。

こうなればいくら白を切っても全てお見通しであろう。

周はそう判断して、躊躇いがちに口を開いた。

「…母上、俺は風使いたちを守りたいんです。春雷の大切な住民である彼らが度々行方不明になっている…そんな噂を聞いたら居ても立ってもいられなくなって、俺は…」

「国土や国民を愛するのは立派な領主として大切なこと。しかし闇雲に動き回ることは賢明とは言えないわ」

珍しく厳しくはないものの、やんわりと諌める厘の口調に周は背筋を伸ばし直した。

「…はい」

「領主たるもの、冷静さを欠いては物事を正しく判断出来ないのよ。お前はまだ年若いから、言葉で理解出来ても行動で示すには難しいことも多いでしょうけれど…私に残された時間にも限りがあるのだから」

――厘の身体は、ある病魔に冒されている。

それは四肢の末端から少しずつ麻痺が進行する難病で、最終的には自力で起き上がることも儘ならない状況に陥る。

有効な治療法は未だ見付かっておらず、もし麻痺が内蔵や脳にまで進行した場合は死に至るらしい。

この病が発覚したのは、昨年のことだった。

元々周を跡継ぎとして育てることに力を入れていた厘だったが、これにより殊更周の教育に躍起になった。

厘は動けなくなる前に、領主として必要なことを全て周に教え込むつもりでいる。

周としては、その前に領主の世襲制度を廃止して欲しいのだが。

「けれど、早く対策を取らないと今に大きな事件に発展しそうな気がするんです。いつもの母上なら、初めの被害が出た時点で俺よりも先に行動していた筈でしょう?」

「…そのことに関しては、私にも反省点は多々あるわ。だからと言ってお前が介入して良い理由には成り得ない」

どうも厘が事を急いでいるのは、自身の跡継ぎ問題だけではなく、更に次代の心配をしているためのようだった。
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