いとしいあなたに幸福を
「愛ちゃんは私と仕事中でしたのに…仕事を半端に放り出して他の用事を引き受けるなんて、あの子らしくありませんわ…」

咲良が困り果てたように呟いた。

途中の仕事を放り出して行く程、大切な用だったのか?

だがそんな素振りは見せていなかった。

あのとき、無理にでも愛梨について行けば良かったのかも知れない。

「京…お前は何か知らないか?」

京はまだ少しぐずついているが、大分落ち着いてきたようだ。

「あらまあ、京様はお父様に抱っこして頂けてご機嫌みたいですね」

「ん…これって機嫌がいいのか?」

京はじっと周の顔を見つめているだけだ。

その蒼い眼に見つめられると、まだちくりと胸が痛む。

以前より顔立ちもはっきりしてきて、一層都に似てきた気がする。

「ええ。抱っこだけで京様が泣き止まれたなんて、愛ちゃん以外は周様だけですもの」

咲良は感慨深げに頷いた。

「…俺の、息子か。…可愛いもんだな」

「ええ。周様の赤ちゃんの頃に良く似てらっしゃいますわ」

――ああ、彼女は自分が赤ん坊の頃のことも良く知っているんだ。

そう思うと少し気恥ずかしかった。
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