いとしいあなたに幸福を
「貴方はそうやって力ずくで人に言うことを聞かせて…何でも思い通りにしてしまうのね」

そんな架々見の姿は、愛梨の目には酷く憐れに映った。

しかし当の本人は全く意にも介さぬ様子で笑う。

「くく…そうだ、私の欲しいものは何だって手に入れてきた…!愛梨、お前にも望むものは何でも与えてやろう」

「…わたしの望みは貴方には叶えられない――絶対。だから貴方に、わたしの心は渡さない」

自分の望むものは最早全て、手の届かないところにしかない。

優しかった両親に逢うことも、大好きだった都ともう一度話をすることも、それに――好意を寄せた相手に自分の想いを打ち明けることも。

何一つ、誰にも叶えられない。

せめてたった一人の兄と共に、ずっと平穏に暮らしていたかった。

それすら叶わないのなら、もう何も望まない。

「…いいだろう、面白い。お前のその頑なな心、必ず屈服させて私のものにしてやる。どんな手段を使ってでも、必ずな」

詠うように愉しげに、紡がれた架々見の言葉に寒気を感じて愛梨は思わずたじろいだ。

この男の狂気に負ける訳には、いかないのに――

「愛梨っ…馬鹿、止めろ…!!」

必死に足掻く悠梨を、架々見は横目で見下ろしてくすりと嘲笑った。

「賢明な妹を持ったお陰で命拾いしたな。何、大事に大事に可愛がってやるから心配することなどない」

愛梨は架々見を睨み付けたまま、悔しげに唇を噛み締めた。

「畜、生っ…!」
< 170 / 245 >

この作品をシェア

pagetop