いとしいあなたに幸福を
不意に割って入った声に、架々見がびくりと身を震わせる。

次いで、ふわりと室内の空気を揺らした風に乗って、仄かに煙草の匂いがした。

「お前は…」

架々見の背後に、いつの間にか金髪の青年の姿があった。

「その兄妹から汚え手足を退けろ。でないとてめえの頭を吹っ飛ばすぞ…架々見」

低く唸るように言い放った周のその掌は、架々見の後頭部に翳されている。

「っ…周さん!!」

「…これはこれは、誰かと思えば休養中の霊奈殿か。領主としての務めも果たさずに、こんなところで遊んでいて良いのかな?」

「てめえにだけは言われたくねえよっ…!さっさと二人を放せ!!」

「ち…此処は素直に従う他ないな」

架々見は不遜な態度は崩さぬまま、わざとらしい程緩慢な動作で悠梨から足を退けた。

次に愛梨を取り押さえている男に目配せをすると、男も仕方なさそうに愛梨の腕を解放した。

「…悠梨、愛ちゃんと一緒に俺の後ろへ。お前ら、少しでも妙な気起こそうとしたら容赦しねえぞ」

素早く身を起こした兄の元へ寄り添うと、悠梨は愛梨の肩を強引に掴んで周の傍らへと駆け寄った。

「愛梨…!!」

「お兄ちゃん…っ」

悠梨の腕にきつく抱き締められた瞬間、一気に安堵する。

それに周が――助けに来てくれた。
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