いとしいあなたに幸福を
「二人共、大丈夫か?…俺が不甲斐ないせいでこんな目に遭わせちまって、すまない」

周は架々見に対して身構えたまま、ちらりとだけ視線を寄越す。

「周さん」

謝ることなんてない、こうして助けに来てくれただけでも、愛梨にとっては十分過ぎる程だ。

「…そのままゆっくりこっちを向いてから、後ろの壁際に並べ」

周に一挙一動を指示され、架々見が苛立ったように顔を顰める。

「…これで優位に立ったつもりだろうが。外には私の配下が多数待ち構えているぞ」

「そんなもん、とっくにいねえよ。何人か締めてやったらみんなさっさと逃げ出したぜ」

「な…!?」

「!周さん、美花さんは…?!わたしと一緒に此処まで来てくれたのに、外にいた人たちに襲われてっ」

彼女は愛梨が室内に引き込まれたとき、外に取り残されたままだ。

「大丈夫、無事だよ。先に邸へ帰したから二人も早く逃げろ、後のことは俺が蹴りを付ける」

「ふん…腑抜けの分際で小癪なことを言ってくれる。だが、そっちの小僧はまだ私に用があるみたいだぞ?」

架々見はそう言ってこちらに――否、悠梨に視線を向けた。

「…!悠梨!!」

「お兄ちゃんっ…?!」

そのとき愛梨は、自分の肩を抱く悠梨の掌が酷く震えていることに初めて気が付いた。

悠梨の視線と意識は完全に目の前の架々見へ注がれており、いくら腕を引いても声を掛けても反応がない。
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